大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)1422号 判決 1991年3月26日

原告

倉地宏明

被告

小島保彦

主文

一  被告は、原告に対し、金五万九五六八円及びこれに対する平成二年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、左記一1記載の交通事故について、民法七〇九条に基づき、損害賠償請求する事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成元年四月二四日午後六時五〇分ころ

(二) 場所 名古屋市北区安井町一丁目二九番三号先路上の十字路交差点(以下「本件交差点」という。別紙図面参照)

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車 原告運転の自転車

(五) 態様 西方に進行中の被害車と北方に進行中の加害車との出合頭の衝突

2  弁済

(一) 被告は、原告に対し、自転車代として二万〇三九四円を支払つた。

(二) 加害車に付保されている自動車損害賠償責任保険契約に基づき、原告に対し、左記の賠償金が支払われた。

(1) 治療費 二一万三九七一円

(2) 通院費 一万〇三五〇円

(3) 文書料 一四〇〇円

(4) 慰謝料内金 六万七三七五円

(三) 合計 三一万三四九〇円

二  争点

1  被告の過失の有無・内容

2  本件事故と原告の高校自主退学との相当因果関係の有無

3  過失相殺

(被告の主張)

本件事故は、原告のいわゆる飛び出し行為を主たる原因として発生したものであり、原告にも本件交差点に進入する際の一時停止及び安全確認を怠つた過失があるので、相当の過失相殺をすべきである。

4  損害額(特に原告主張の慰謝料額)

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証。弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  争点1(被告の過失の有無・内容)について

1  証拠(乙一ないし三、原告本人、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。

本件交差点は、別紙図面記載のとおり、庄内用水沿いの東西に通じる道路(本件交差点東側の道路幅員約三・〇メートル。西側の道路幅員約五・〇メートル、以下「甲道路」という。)と南北に通じる道路(幅員約五・三メートル、(以下「乙道路」という。)とが交差するアスフアルト舗装道路の交差点であり、信号機は設置されていない。本件交差点の南東角には安井荘というアパートが建つており、乙道路を北進してくる車両運転者にとつて右側(東側)の、また、甲道路を西進してくる車両運転手にとつて左側(南側)の見通しは極めて不良である。本件事故当時、被告は、加害車を運転し、乙道路上を時速約二〇キロメートルで北進走行してきたところ、前方交差点に車両がなかつたので、そのまま本件交差点に進入しようとしたが、右前方約六メートルの地点に西進してきた被害車を発見し、急制動の措置を講じたが及ばす、加害車左前部を被害車左側部に衝突させた。

2  右認定によれば、被告は、加害車を運転して見通しの悪い本件交差点に進入するにあたり、前方を注視し、交差道路の交通の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然本件交差点に進入した過失があると認められる。

3  なお、原告は、乙道路の本件交差点南側にある停止線において停止すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある旨主張しているが、乙一、二に照らすと、本件停止線は、乙道路進行車両が本件交差点で停止する場合の停止位置であることを示す意味を有するに過ぎず、本件交差点において停止すべき注意義務を課するものとはいえない。したがつて、被告には、原告が主張するような停止義務違反の過失は認められない。

二  争点2(本件事故と原告の高校自主退学との相当因果関係の有無)について

1  証拠(甲一ないし三、乙一〇ないし一七、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故により、顔面、頭部、両側上肢切創及び挫傷並びに皮下出血等の傷害を受け、その治療又は検査のため、平成元年四月二四日から同年五月一三日までの間に合計九日服部外科病院に、同年四月二六日から同年五月三一日までの間に合計四日城北病院に、同年六月五日から同年七月一四日までの間に合計六日名古屋大学医学部附属病院(脳神経外科及び放射線科)に、はそれぞれ通院したこと、その間、原告は、頭痛、頭重感、頭のふらふら感等の症状を訴え、かかる症状のため当時通つていた高校も休みがちとなり、学校の授業にも取り残され、クラスの友人からは疎外されたような気持ちを毎日抱くようになり、同年七月ころから同年九月ころまで休学(夏休みを含む。)した後、同年一〇月二二日付けで退学届を提出するに至つた。なお、原告は、同年一〇月二三日名古屋大学医学部附属病院脳神経外科に通院しているが、これは同日付けの診断書をとるために通院したにすぎない(甲一及び原告本人)。

2  右設定によれば、本件事故と右自主退学との間には、前者がなかつたら、後者もなかつたであろうといういわゆる条件的な関係が存在することは否定できないが、右傷害の部位程度等に照らしてみても、右原告の自主退学が本件事故によつて通常生ずべき結果とは考えられないし、被告において右自主退学という特別の事情を予見し又は予見しえたものと認むべき証拠もないから、本件事故と右自主退学との間には相当因果関係があるものとは認められない。

三  争点3(損害)について

1  治療費二一万三九七一円、通院費一万〇三五〇円、文書料一四〇〇円、自転車代二万〇三九四円の各損害については、いずれも当事者間に争いがない。

2  慰謝料(請求一〇〇万円) 五〇万円

本件事故態様、原告の前記傷害及び治療経過等に照らし、通院二・七か月相当の慰謝料として右金額を相当と認める。

3  合計 七四万六一一五円

四  争点4(過失相殺)について

1  証拠(甲二、乙一ないし三及び原告本人、被告本人)によれば、原告は、被害車(自転車)に乗車し、帰宅のため甲道路上を西進走行してきたこと、本件交差点手前には二本の鉄柱が一定の間隔をおいて立てられており、その鉄柱の間の路面上には「とまれ」という文字が二つの足型と共に表示されていること、原告は、被害車の速度を緩めたものの、前方交差点内に車両がなかつたので、そのまま本件交差点に進入したところ、前記のとおり加害車と衝突したという事実が認められる。

右認定事実及び前記のとおり左側の見通しが極めて不良である事実を総合すると、原告は、被害車に乗車して見通しの悪い本件交差点に進入するにあたり、一時停止のうえ、左方を注視し、交通の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、一時停止せず、左方を注視しないまま、漫然本件交差点に進入した過失が認められる。

2  右認定の原告及び前記第三の一認定の被告の、各過失の内容、程度、車種の相違等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告の損害の五割を減額するのが相当と認められる。

したがつて、前記損害額七四万六一一五円から五割を減額して原告の損害額を算出すると、三七万三〇五八円(円未満四捨五入)となる。

五  損害のてん補 三一万三四九〇円

原告が損害のてん補として受領した右金員(当事者間に争いがない。)を控除すると、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、五万九五六八円となる。

六  結論

以上によれば、原告の請求は、五万九五六八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年五月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 芝田俊文)

別紙 略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例